ロータリーエンジンの開発

エンジニアのモラール
Last Updated on July 1,1996


ここに掲載する写真は "The Rotary Graffiti 1967-1987" のものです。
文書は山本健一氏、執筆のものです。


技術開発というものは、大なり小なり、それにたずさわる技術者達のモラールによって、その成否が左右されるといっても過言ではない。ましてやそれが長期にわたればわたる程、またそれが革新的で困難であればある程、リーダーを含め、それに従事するメンバーのモラールが非常に重要となってくる。

ロータリーエンジンの開発のように、社会的な環境によって左右される場合にはなおさらである。数奇な運命と言ってしまえばそれまでである。

その技術開発がどの様な意義を持つか、そして何故必要であるかについて、メンバーは常に認識し理解する必要がある。さらにその問題意識を常に維持し続ける必要がある。困難な問題に直面した時、それを打ち破れる最後の原動力はそのメンタリティーであると思うからである。
しかしこのメンタリティーは経営姿勢や企業精神によって大きく左右される。これ等に伴って技術者のモラールや、企業に対するロイヤリティは大きく影響されるからである。

メンバーは時として自信を喪失したり、挫折感に襲われる事がある。それだけに技術開発に於けるリーダーの責任は重い。信頼に基づく人間関係を前提としてリーダーシップが要求される様に思う。
今まで遭遇した幾多の困難を乗越えて来れたのは、私も含めて技術者達が心を一つに出来たからだと思う。我々には三つの心の支えがあった。


第一には、多くの人々の期待に沿いたい、何としてでも、と思う奉仕の一念があったからである。
第二には、古臭い考え方や批判に立ち向い、技術革新を実施したいというエンジニアの意地ともいうべき情熱があったからだと思う。
第三には、これが最も大切だと思うが、好きになったこのエンジンに何とか陽の目を見させてやりたいという執念にも似た愛情があったからだと思う。

これ等の心の支えがあったからこそ、我々はやって来れたのだと思うし、また燃えることも耐えることも出来たのだと思う。執念にも似た夢を一歩一歩、現実になし得たのだとも思う。


ロータリーエンジン開発の苦難は、まだまだ続くであろう。
しかし、過去の苦難の歴史の中に我社は、多くの企業内各分野に於いて広範囲な挑戦的風土を生み出した。また共感する多くの若きエンジニア達を得た。さらに、数多くの社外メーカーの企業を越えた有形無形の協力も得た。

これ等一つ一つは単にロータリーエンジンの開発ということに止まらず、我社にとって非常に貴重で大きな財産であり、創造と言う技術開発にとっての貴重なポイントであるということを述べて結びとしたい。


「半導体研究所報告 第23巻第3号/1987年7月」より転載




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